最近の経営書で話題になっているものに、
人的資本経営と理念経営をテーマにしたものがありますが、
実はこれらは経営の本質、人間の本質に到達していない、
というお話をします。
この論考は、経営者自身の生きる姿勢を見直す上で極めて本質的な内容であり、
ここの土台が出来ていないと、どのような経営施策も表層的で問題解決に繋がらないことを明らかにしていますので、是非最後までお付き合い頂ければと思います。
考察の対象にした著作とその概要を一旦レビューします。
1.理念経営2.0 ── 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ 佐宗 邦威
いま、なぜ経営者は自社の存在意義について考えるのか:
【概要】
社員から「会社で働く意義を感じられない」という声が出てきている。
「経営理念を作りたいんです」という経営者。
企業理念を中心に据えた理念経営は松下幸之助など一部のカリスマ経営者の会社で実践される、かなり特殊なものだった。
「組織の存在意義をデザインする DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューmp「パーパス特集号」は異例の売れ行きで単行本化されるに至った。
自由で自律的なはずのティール組織で、自分がこの会社で働く意味はなんだろう、と考え退職者が相次いだ。
そこから組織の存在意義を考え、理念経営2.0に行きついた。
動機、ヒストリー、カルチャー、バリュー、ナラティブ、ミッション、ビジョン、パーパスを明確にした経営が求められる。
【考察】
企業理念を経営の中核に据える経営の在り方は、
松下幸之助など一部のカリスマ経営者の会社で実践され、かなり特殊なものだった、それが無くても会社は回せた、
けれどもそれでは社員のモチベーションを上げることが出来なくなってきた、
だから今こそ理念経営が必要だ、と説きます。
この書の内容に対しては全く異存は無いのですが、
根本的な且つ大きな欠落があります。
ここでは理念・社会的存在意義という言葉は用いられるものの、
その理念がどうあるべきかは定義されず、各企業と社員に委ねられています。
しかし、松下幸之助が喝破したように、
企業の存在意義・経営の目的は社会貢献であり、それが根幹です。
この前提の上で、理念は、創業者の想いを言語化したものであり、
この土台を作るのは経営者の仕事です。
そこに現実的なビジョンを組み合わせることで理念経営が実現するのです。
2.図解 人的資本経営 50の問いに答えるだけで「理想の組織」が実現できる
岡田幸士 人的資本・人が重視される理由
【概要】
・企業の競争力の源泉
・企業が生み出す社会的価値(株主だけでなく従業員を含め全利害関係者に価値がある)
人的資本経営とは:企業の使命・経営戦略に向けて
人と組織のありたい姿は何か?
在りたい姿を実現するために、自社に必要な取り組みは何か?
これらを明らかにし、ここから人の採用と育成方針を決める
この発想は人的資本の資産価値を客観的に評価しようとするもの。
更に人は投資によって価値が増大する、と考える。
人的資本のレベルの高さと業績に正の相関がある、という調査結果が前提。
キーエンスのように独自の人的資本を形成することが重要とされる。
プロのスポーツチームのような関係性を志向する、
企業の目的や、この会社で働くことの意義を見極めて
自律的選択をする人が増えている。
3.【考察】サイモン・シネックのフォーシーズンズホテルのバリスタNohaの話から見えるもの
人材の価値は、それ単独で決まるものではありません。
サイモン・シネックのフォーシーズンズホテルのバリスタNohaの話
をご存じの方も多いと思います。
彼はここで「人材」の価値を発現するものは何か、
について極めて本質的な話をしています。
彼が、お気に入りのラスベガスのフォーシーズンズホテルに泊まった時、
フレンドリーで楽しく会話を交わしてくれて、
コーヒーを買うのをとても楽しくさせてくれるバリスタのノアに、
「仕事が好きか」と聞いたら間髪を入れず「好きです」と答えます。
サイモンが「フォーシーズンズが何をしているのか」と聞くと、
どのマネージャーも一日中私の前を通り過ぎて、私の調子はどうか、
仕事をもっとうまくやるために何か必要なことはないかと聞いてくる、
と言うのです。
実はノアはシーザーズパレスでも働いていることが分かり、
シーザーズパレスではマネージャーは、従業員のミスを監視していて、
そこで働くときは、ただ一日を乗り切り、給料をもらうことだけを願っている、
でも、フォーシーズンズでは、本当の自分でいられると感じている、
と彼は言うのです。
経営者は、適切な人材を採用しなくてはならない、と考えますが
実は、人材の質を決めるのはリーダーシップなのです。
適切な環境を作ればフォーシーズンズのノアのような人材を獲得できるのです。
4.【結論】このエピソードは、人材がいない、良い人材を集めなきゃ、
という前に経営者自身の在り方を問うています
顧客が快適な時間を過ごせることを志す、
社員は同じ志を実現するための仲間であり、
彼等が活き活きと自身を生かすことができる
環境を整えるのが経営者の役割であると。
経営者が従業員を含めて他者への愛に生きる姿勢は
制度設計とマネージャーの行動に如実に反映されます。
経営者の生き方が全ての出発点であるのだ、と。
経営者が思い描く顧客に提供する価値は何か、
それに基づく就労環境整備、就労方針、人材育成方針によって、
同程度の人材が、とてつもなく大きな価値を自律的に顧客に提供するようになる。
人材の価値はリーダーシップで決まります。
真の人的資本経営とは、このことです。
つまり、経営者の理念・人間性が全てなのです。
リーダーは他者への愛に生きよ、だから、経営の目的は社会貢献なのです。
他者とは顧客であり、自分の理想を実現するパートナーである従業員、取引先です。
理念経営も、人的資本経営も、その根幹にあるべきものは
「企業の目的は社会貢献である」ということです。
そして、その企業の目的の更に土台にあるべきものが、
経営者自身の他者への愛に生きる精神・魂なのです。
この根底を曖昧にしている限り、
言語化される経営理念も、ビジョンも表層的なものになり、
社員がその仕事に人生を賭ける意義を見出せるものになりません。
この精神が根底にあることで、その精神が制度設計、人材育成方針、
管理職の役割定義等、あらゆるものに反映され、
働く場が社員にとって自身を生き生きと活かす場所になっていくのです。
5.2024年 中小企業が置かれた困難な環境
2024年現在、中小企業は発注側大企業の原価低減の動きのため値上げが出来ず、
大企業の営業利益率6.2%に対し、中小企業は2.0%に過ぎません。
中小企業は、輸入原材料の高騰を価格に転嫁できず収益を圧迫される中、
更に求人難をかかえ人材確保のために、賃上げを行わねばならない状況にあります。
(一方、海外展開を図っている企業は、円安効果を背景に利益を増大させています)
この低い利益率を打破するためには
生産性・付加価値の向上が必須となりますが、
そのためには投入人員数や工数の削減、つまり省力化・効率化と値上げが必要です。
値上げは、単に同じ顧客に同じ用途で売り続ける限り、
容易に実現できるものではなく、
自社商品による効用を最大化出来る市場に販売することで
商品価値を最大化する必要があり、
そのための市場分析とマーケティング戦略が必須になります。
そして、社員が仕事に意義を感じられず辞めてしまうことに起因する
人材不足については、
経営者の他者への愛に生きる精神に基づく社会貢献を企業の使命と定義した上での
理念経営と人的資本経営を徹底して行くことで解消できるのです。
実は、マーケティング戦略・販売活動の根底にあるべきものも
他者への愛に生きる精神なのです。
この想いを根底に持たなくては、顧客の真の悩みを解決することに繋がりません。
6.ジョブズが他者への愛に目覚めた経緯
私がフォーカスしているB to Bの事例ではありませんが、
スティーブ・ジョブズが「あなたはJAVAの優秀性を分かっていない」とする質問者に極めて誠実に回答した内容をご覧に入れます。
シーズ志向でテクノロジーの優秀性からスタートして失敗した痛い経験を持つジョブズだからこそ語れる、極めて誠意のある回答をしてくれています。
しかも、それはニーズ志向などという次元ではなく、
真に顧客にとってポジティブな影響をもたらす体験が何かを考えつくして、
その異次元のソリューションをゴールにすることで
顧客さえ気付かなかった新たな体験と市場を創り出した人にしか語れないものです。
ジョブズの言葉を噛みしめたいので改めて文字にしました。
「素晴らしい顧客体験を最終ゴールにして、その実現を可能にするために
テクノロジーを活用しなければならない。
テクノロジーの開発からスタートしてから、
どのように売るかを考えちゃダメなんだ。
僕は恐らくこの部屋にいる誰よりもそのミスを犯してきたからね。
失敗の結果がそれを証明している。その苦い経験から学んだんだ。
だからAppleの戦略とビジョンを考えようとした際には、
顧客にどのような素晴らしい価値を提供できるかから始めたんだ。
顧客にどんなポジティブな影響を与えられるかをね。
エンジニア達と議論してどんな凄い技術を開発できるか、
そして、それをどのように売っていくか、の順番じゃなくてね。」
自身のもつテクノロジーからスタートして、
これだけのものを揃えたら顧客は買うはずだ、という
顧客への想いを捨象した商品開発で失敗をする中で、
ジョブズは真に顧客の立場に立ってそのベネフィットを追求する姿勢に
変わっていったのです。
私にはこの過程で彼が他者への愛に目覚めたのではないかと感じられます。
質問者への誠実な回答の仕方にも他者へのリスペクトが現れています。
企業活動の成否は、全て経営者が他者への愛に生きる精神を持てるかにかかっている、
この覚悟が全ての企業活動に通底する、ということがお分かり頂けますでしょうか。
経営の本質とは何か、人は・リーダーはいかに生きるべきか、企業経営の目的は何か
それを土台に、僅か3ステップで販売不振を脱却し、不活性な組織を
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