経営理念 成功する起業家に共通するものとは

ベトナムのホーチミンシティ(HCMC)時代に、縁あってSTONESOUP ASIAの代表の落合さんとお知り合いになり、2022年12月時点で既に141回を数えるストーンスープフォーラム(大隈塾勉強会)に何度か参加させて頂くことが出来ました。
多彩なゲストを招いて下さって、毎回大きな学びがあります。

成功する起業家の皆さんに共通するのは、

1.ミッションとビジョンが明確且つ魅力的で、

2.強烈なパッションを持つこと、

3.その人に惚れ込んだ支援者が現れ、

4.社員を仲間と考えて暖かく接している

ことではないかと思います。

1.AN’s spa経営者 Anさん

私にとって初回が2019年の講師、ベトナム人女性起業家Anさんで、ハノイ貿易大学輸入輸出学科を卒業後、人材紹介会社を起業。

日本で求人情報企業enに勤務後、ベトナムで再び進出支援企業(Eden Park)とAN’s spaを起業。

Spa事業は東洋医学を活用したマッサージとしてHCMCで人気を博し、2022年末時点で2店舗まで拡大しています。

中学2年の時にテレビでベトナムの貧困家庭で父母の作業の手伝いのために学校に行けない子供達を見て、困っている子供達をビジネスを通して助けたい、教師に依存せず勉強が出来るようにしたい、そのために事業で成功したいというのが起業の動機です。

ベトナム式指圧マッサージの業界団体を作るというビジョンを持ち、東洋医学の指圧・気功で30年の専門家を顧問に迎え社員教育の体制を整えました。
指圧マッサージの業界でトップ5に入ることを目標にし、社員にはフェイスブック広告で自社の強みを共有し、成功事例と未来を示すことで高いモチベーションを持てるようにしています。

2.COACER経営者 清水麗子さん

日本とベトナムで再生医療と新型エラスチンを核とする事業を展開する女性実業家清水麗子さんで

「弊社の幹細胞治療をはじめとする商品やサービスは、これからの日本の大きな課題である超高齢社会において、人々がいつまでも若々しく健康で活躍することをサポートすることができるものである。」という基本理念を持ちます。
もっとくだけた場面では「老化による不調をなくして笑顔にする仕事で、世界中に笑顔の友達を増やす」と表現されるミッションを掲げています。

3.Satisfill代表取締役社長の井上進太郎さん30歳

自社で運営するホテルはすでに国内15件。コロナの環境転換にあっても持ち前の機動力とアイデア力と推し通す力で事業を多角化、拡大させ成長、精神も磨かれたという進太郎さんが登場。

以下は、私が主催者に送ったお礼と感想メッセージです。
「マーケティング理論による市場把握と経営理念の落とし込み・チームビルディング手法が私の専門ですが、井上社長はそうした理論や手順を飛び越えて、困っている人のニーズを掴んで深堀して事業化する、社員への想いを苦境下でありながら賞与として形にするなどして、社員が自ら経営者の感覚で事業提案をして来る関係を築けている、その人間力に脱帽しました。

しかも事業創造の対象が、従来の業界の常識では存在しない分野であるにも関わらず、銀行や不動産企業を味方に付けながら実行して行く、関係者がWin Winとなる事業開拓モデルに、異次元の感性を持って居られることに、非常に大きな学びと刺激を受けました。このフォーラムの参加者の皆さんの意識とスキルの高さにも非常に感銘を受けました。大変有難うございました。」

4.ロボットベンチャーHelloRobot代表兼会計事務所代表の山谷健さん

時間の都合が付かず参加出来ませんでしたが、落合さんの紹介文で十分にそのエッセンスが伝わりますので、転載させて頂きました。

”ただただ青臭く経営を語る”シリーズの第5弾”の切り口は、とがった士業経営者です。
新卒で士業と言えば一生充実する安定したキャリアを念頭に学生時代からあれやこれやと思念して研鑽に研鑽を積んでしっかり先を見定めて~なんて思うかもしれません。
が、山谷さんはそんな箱に収まらない士業人なのであります。世界4大会計事務所を渡り歩きながら目にしたのは日本国の相対的な地位の低下。
こんなのではダメだ!
日本人の微に入り細に入り人にものに気に掛けることのできる特性を生かしたビジネスはやはりロボットである。それは全企業の99%を占める中小企業が支える日本を復興する数少ない次に一手なのであると語るのです。
こんな熱すぎててワクワクする話を冷静に語る姿に切れ者士業人の面影を感じるのです!
ご期待ください!
ー引用終わりー

これら新進気鋭の企業家の皆さんに対して、私が過去に勤務した大企業の企業理念を対置してみたいと思います。

5.JX金属グループ理念(転載)(旧日本鉱業)

私たちは、非鉄資源と素材を安定的に供給することが社会的使命であるとの認識のもと、鉱物の探査・採掘・製錬から金属加工・電子材料製品までの生産・販売・開発等事業活動のあらゆる面において、次の行動規範に従って、技術的合理性、効率性、品質・特性の向上等を追求する一方、ゼロエミッションを目指したリサイクルを促進することにより、資源と素材の生産性の革新に継続して取り組みます。
併せて、お客様、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーとの共生関係を維持・向上いたします。そして、これらを通じて、私たちは、地球規模で社会の持続可能な発展に貢献してまいります。
ー引用終わりー

以下は私のプロフィールで記載した内容ですが、ここに引用させて頂きます。

ープロフィールから引用ー
この会社は日立鉱山が源流で、その鉱山で構内車両を提供していた部門が後の日産自動車になり、構内エレベータの上げ下げをするモーターを提供していた部門が、後の日立製作所になっています。

新田次郎の「ある町の高い煙突」という小説は、この会社の銅精錬所の排煙が亜硫酸ガスをまき散らして、近隣農家に甚大な被害を与えていたため、ある高さの気層を超えて排煙すれば、拡散して近隣農家の被害を防ぐことが出来ることから、会社が155m余りの高い煙突を立てた実話を基にしています。現在は亜硫酸ガスは脱硫工程を通って硫酸として回収されるため、排気は非常に綺麗になっています。

この精錬工場からの排水は近くの川に流されていますが、それが綺麗であることを示すため、工場入口のロータリーの池で、排水の中でコイを飼っていました。企業の公害対策の草分けで、この企業が持つ企業理念がそこに現れています。

先の大煙突は1915年に立てられ、私がたまたまその工場で勤務していた1993年に1/3を残して倒壊しました。倒壊する際には、人が入らないエリアに倒れるよう設計されていて、実際に全く被害はありませんでした。

この話を聞いて、エンジニアの志の高さを知って、私は人知れず感動の涙を流していました。
ープロフィール引用終わりー

社員が共感して感動する企業理念がここにもある、と言えるのではないでしょうか。

6.バッファロー(社名はメルコ)企業理念(引用)

メルコバリュー
グループ全体で共有し実践することで永続的な成長を目指してまいります。

千年企業
私たちは、先人の教えを真摯に学び、活用し、常に未来を見据え、メルコバリューを共有する全ての人たちとともに、メルコグループの永続的な成長を目指します。

顧客志向
私たちは、常にお客様の視点に立ち、より良い社会生活の実現に資する商品・ サービスを提供し続け、私たちの智恵と努力が社会の発展に寄与することを喜びとします。

変化即動
私たちは、世の中の変化に目をそむけず、誤りに気付いた時は引き返す勇気を持ち、常に自己研鑽に励み、自己変革を目指して行動します。

一致団結
私たちは、フェアーアンドオープンの精神で、高い志と情熱を共有する人たちと共に、いかなる困難をも乗り越え、一丸となって目標を達成します。

コーポレート・ステートメント
つなぐ技術で、あなたに喜びを
私たちはこれまでも「IT時代におけるお客様の利便性向上」を使命とし、使いやすさと快適さを感じていただける商品及びサービスの提供を行ってまいりました。

そしてこれからは、誰もが簡単にそして安心してインターネットに接続でき、より安全で快適にデジタルデータを保存・再生できる喜びを提供していきます。

これらの事業活動を通して、理念を共有するすべてのステークホルダーの幸せを実現していきます。
ー引用終わりー

徹底した顧客利便性を追求する姿勢がこの企業理念に表れています。
PC周辺機器は、あらゆる機器との接続性が確保されていることで、顧客は接続するだけで使えるという利便性を享受出来ます。
同社はそれを実現するために、市場に出す前に人知れず膨大な接続検証を行っているのです。

更にパナソニック出身役員の教えとして、仕入先の尊重・仕入先との共生があります。
私が所属した海外事業部門では、毎月6ヶ月分の販売見通しをまとめ、これを毎月更新して、発注長期計画を仕入先に提示していました。
カンバン方式のように、自社は部品在庫を持たず、納入業者が顧客需要に応じて即納する体制をとることで、自社の資金繰りと納期短縮に寄与することが出来ますが、ともすると納入業者に在庫を抱える負担を転嫁することになります。
松下幸之助さんの教えは、仕入先をパートナーとして捉え、共に繁栄することを旨とします。それがパナソニック購買の支払条件にも現れていて、ベンチャー企業時代にパナソニックとの取引口座を開けた時には社内が大喜びだったことを思い出します。他の大手企業と異なり、支払期日が短いため、中小企業は資金繰りで大いに助けられます。販売する側から見て、こうした顧客に出来るだけ貢献しようと務め、惹きつけられるのは当然なのです。

ここに見る企業理念も顧客とパートナーを魅了し、社員の意欲を喚起するものになっているのではないでしょうか。

企業理念は立派だけれども、それは広告宣伝の一環であり、企業の実際の行動実態は理念にはほど遠い事例が世の中には溢れています。
「良品廉価」「顧客本位」という企業理念のもと、高品質で安全な製品づくりを行うとする食品メーカーが発がん性添加物を大量に使用しまくっている、といったことが悪しき例の典型です。実情を知る従業員は決して共感・感動によって自律的に行動することは無いでしょう。

経営者の真情から語られる誠の経営理念のみが、顧客と社員・パートナーを惹き付け、大きな力を生んでいくのだと思います。

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組織活性化の取り組み 経営者の基本精神と組織整備・マネージャー育成

組織活性化の取り組みについては、これまでの経歴のあらゆる経験・学びが伏線となって、一つの体系的考え方、実践となって結実しました。

日本鉱業での学び、バッファロー時代のパナソニック出身役員による幹部育成研修での教え、ベトナム現地法人での取締役総務人部長としての自身を含めた管理職育成の取り組みなど、幾つかの経験が重なることで、あるべき姿が見えて来ました。

結論は、

経営者・管理職が他者への愛をその精神の基底に持ち、社会に貢献する企業の使命を企業理念とし、高位に立つ者としての矜持を持つことが組織運営の根幹であり、起点であるということです。

それを経営層からマネージャーへ、マネージャーから社員に落とし込んで行くことで、その使命への共感に裏付けられた自律的組織が形作られます。

そして、企業の使命を現実化するためのビジョン(将来構想)、ゴール(いつまでに何を成し遂げるか)が、リアリティ(実現性)のある戦略の上で定められ、それを含めて落とし込まれて初めて個々人の共感と意欲に支えられた強靭な組織になって行きます。従来の組織論には、この部分が決定的に欠落しています。この戦略・ビジョン・ゴール策定にはマーケティング分析・戦略が必要になるのですが、その説明は別項で行います。

私の考える「組織活性化のあるべき取り組み」を形作った経験は以下になります。

①ジャパンエナジー(日本鉱業)時代の学び

 ・経営層が社員のモラル向上運動を行い始めたが、真の社員教育は経営者が高位にある者の矜持を持つこと、失敗に対して潔く責任を取ることによって為されるのであって、モラル向上の矛先は経営層であると感じたこと

 ・品質管理エキスパート(技師長の職名だった)の存在は職能等級制度の有用性を表していた。部下を持たないが専門職として高い技能を持つ方々が企業の技術力を支え、技術標準化会議などで社を代表する存在となっていた。

②バッファロー時代のパナソニック出身役員による幹部育成研修での教え

 ・高い地位にある者の矜持

 ・社員に選ばれる会社、管理者であるべき

 ・マネージャーの役割はプロセスの変革である

 

③ベトナム現地法人での取り組み

 ・ホンダ現地法人に学ぶ企業理念落・品質管理方針の落とし込み、

   マネージャー育成とチームビルディング

会社は私の着任1-2年前に、日本人マネージャー育成のためのセミナープログラムを導入していました。ホンダベトナム出身者が独立してセミナー活動を行っていたもので、大手企業が現地法人を経営する際に日本人マネージャーに求められるマインド、企業理念を落とし込み、部下の管理・育成の在り方を指導する内容は、自身を律する上で非常に重要な学びとなりました。そのレジュメを自身を含めて日本人管理職同志で学ぶ機会を設け、自身の行動を改める契機にして行きました。

※ホンダはベトナムでのバイク市場のシェアが8割と、バイクのことをベトナム人が「ホンダ」と称するほど、圧倒的な地位を確立しています。

これは隣国のカンボジアでも同様でした。進出に際して市場独占の鍵を握る中古市場での転売可能性、修理・保全のための部品供給体制をいち早く確立することが定番施策となっていて、

それと合わせて現地法人運営にあたって日本人マネージャーの育成に力を入れて現地で確固たる地位を確立しているのだと思います。

 

その他の組織体制整備等の取り組みは以下になりますが、どれもが欠くことの出来ないテーマです。

 ・業務分掌規定、職務記述書+工数算定 等の組織基盤整備

部署間の役割分担、各人の職務範囲・使命を明文化しておく必要があります。

 ・人事制度設計:職能等級制度と役職制度の組み合わせ

役職制度一本しかないと、役職の乱発、役職者への信頼低下を招きやすいです。

部下を持つ管理職に適さないけれども専門性で企業に必要な人材に適正な給与と名誉を付与する職能等級制度が生きて来ます。

 ・退職社員抑制:社員の幸福度向上、退職抑制が生産性の維持に繋がる

退職者を補充して一人前に育てるには、採用費用だけでなく教育に要する時間が必要なほか、本来の生産性に達するまでに数か月を要する場合があり、コスト・生産性の面で退職者を新人で補うのはマイナスになります。

 ・カイゼン活動・QC、ISO:

   何故日本人にしかカイゼン活動が出来ないのか:日本の根源的な思想

   カイゼン活動・QC、ISOについては、各々別項で取り上げます。

④数々の反面教師達

ベトナムをはじめとした海外現地法人、外国企業での勤務での幾つかの反面教師を列記します。記事を読まれる方が、自身がこのような状態に陥っていないかを顧みる上でお役に立つと思います。

・社員はカネと恐怖で動くという根本的に誤った考え方で、次々と飴と鞭の施策を繰り出すも、一向にマネジメント層も社員も育たない、というのが典型的事例です。

 人事の専門家は理解していると思いますが、人々が働く会社を選択する基準は給料の高さがトップではなく、そこでの遣り甲斐、自己実現の可能性が最大の動機です。そこに、ノルマを達成したら褒章を与え、達成しないと減給・降格するといったやり方では、自発性を引き出すことはおろか、人を惹き付けることが出来ません。

・現地人社員に対しては気を遣うが、日本人社員に対してはパワハラ三昧の日本人経営者

現地人の尊敬を集めようと努力するものの、日本人マネージャーに対しては、日本企業に根付いてしまった悪しき慣習である、上の者は下に対してどんな横暴な発言も許されるという発想が日系現地法人で頻繁に見られます。これでは、要となる日本人マネージャーを育てることが出来ず、自発性を引き出すことは出来ません。

・経営者が現地人の尊敬を集めようと部下の役員層を飛び越えて「有難いお話」、リーダーシップ論を現地人マネージャーの退勤後の時間を使って施す。

経営者の名誉欲が組織を壊して行くだけでなく、このような動機に基づく講話は、言行不一致(立派な事を言いながら自身はそれを実行出来ていない)に気付かず、日本人マネージャーからの信頼を悉く失って行った事例があります。

 他にも幾つもの事例がありますが、ベトナムに関する項で詳しく説明します。

⑤自身が到達した経営者のあるべき姿:

 ・他者への愛が全てである

 ・経営者の役割は「経営」である。企業の将来像を形成するための営みである。

  日常のオペレーションはNo2以下の仕事。

  No2で得られる人材が最も重要、それが日本人であるか、現地人であるかに関わらない。このポジションの人材獲得・育成に、最大限の情熱を注ぐべき。そこが核になってマネージャー育成・人材発掘・登用を行うことで、モラルの高い人材・組織が育つ。

これらの理念から実務までを「中小企業経営者のための法人営業の教科書 マーケティング思考の営業戦略と自律的組織運営」にまとめ、Webセミナーを提供しています。

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